病理診断科の紹介


1.ごあいさつ

 これまでの肺がんの外科病理診断は、その組織型の判定や切除断端に腫瘍細胞が残っていないかを判定することが重要な任務でした。特に小細胞がんか非小細胞がんかの判定を組織学的、あるいは細胞学的に下すことは治療薬の選択に影響する重要な任務でした。

 近年、肺がん診療の進歩により病理診断に求められるものも変化してきています。例えば、1990年代に始まるCT画像診断の発達は、病理組織との対比から、これまで肺葉切除を基本としてきた手術に、新たに積極的な縮小手術(肺葉よりも小さな部分にとどめる手術)の可能性を開きました。それに伴い、術中迅速において浸潤の有無を判定することを求められ、また、切除端の評価が大変重要な項目となりました。

 また、2000年代に入り、肺がん治療に有用な分子標的治療が開発されてきましたが、遺伝子レベルで治療適用の可能性について判断できるようになってきたことから、組織学的にも細胞学的にも腫瘍細胞の組織型を判定し、分子標的薬が適用可能な場合には遺伝子レベルの検索へ進める、重要な位置を担うようになりました。

病理診断の指導

 病理診断を行うにあたって、がん細胞の形態をみるだけでは不十分と私たちは考えています。手術材料肉眼検討会や臨床病理カンファレンスで臨床医と徹底的に討論を行い、患者さんの状況について熟知しようと努めています。併設のがんセンター研究所とも協力して、必要に応じて細胞生物学的な解析を用いて診断にあたっています。また、抄読会、技術開発検討会などを経て、最新の診断方法の適応や開発を惜しむことなく日常業務に取り入れています。

 当院は神奈川県がん診療連携拠点病院の病理診断科としてその役割を担うことが求められています。標準治療に沿った医療提供が行われ得る質の確保など、地域がん診療連携拠点病院としての役割を果たし、他の11病院から成る地域がん診療連携拠点病院に対しての情報提供、症例相談、診療支援、研修会などさまざまな病理診断におけるハード、ソフトの充実を目指しています。

 私たちは、今後の10年の肺がん診療を病理学的側面から支えられるように、日々知識の吸収、更新、技術の向上、開発、教育システムの改善、改良を行い、県内唯一の肺がん病理に関する情報発信基地として成長していくことを目指しております。

組織写真1

2.病理診断について

肺がんの病理

 肺がんにはいくつかの種類がありますが、多くのものは気道表面を覆う上皮細胞に由来します。多彩な組織像(細胞の形、構築)を示しますが、小細胞がんと非小細胞がん(腺がん・扁平上皮がん・大細胞がん)に大別され、発育速度や薬物に対する感受性が異なることから、両者の鑑別は重要です。一般に、小細胞がんは最も早く大きくなり、一般に小細胞がんは化学療法に反応しやすいこともあり、転移のない早い時期を除いては手術より化学療法、放射線治療が優先されます。

 非小細胞がんである腺がんは、肺胞といわれる末梢気道の表面を増殖する特徴があり、肺胞腔に空気が残るため、CTなどの画像診断で淡い陰影として指摘できます。血管やリンパ管に入っていかない、つまり浸潤のない、肺胞表面だけで増殖するがんは細気管支肺胞上皮がんと呼ばれ、早く見つかれば、肺の一部分だけを切除する部分切除という手術で直ってしまう可能性が高いことがわかっています。当院では術中に病変部を病理に提出し、このような浸潤のないがんか否かを調べる術中迅速診断を行っています。扁平上皮がんや小細胞がんは慢性喫煙と最も因果関係のあるがんで、肺の入り口近くに発生することが多いため、通常行われるレントゲン検査では早期発見がしにくいがんです。しかし、痰に混じることが多く、喀痰(かくたん)細胞診で見つかりやすいので、喫煙歴のある人はレントゲン検査と同時に喀痰細胞診を受けることが大切です。これらの腫瘍細胞の性格は組織や細胞を採取し、病理医が顕微鏡で観察することでわかります。

細胞診断

3.病理診断科業務 全般のご説明

 病理診断科では検査第1科と共同で組織診・細胞診の診断を行っています。対象検体は肺がんのみならず、全身あらゆる部位からの臓器を扱っています。病変部から得られた組織・細胞は肉眼と顕微鏡で観察し精度の高い診断が下されています。生検(年間約6,000件)は主に良悪性の診断を目的とし、手術の可否、術式、切除範囲などを決定するのに有用です。術中迅速診断(年間約600件)では、手術中に良悪性の診断やがんが取り切れているかの判定などを行います。手術検体(年間約3,000件)では、術後の治療方針を立てるために重要な情報となる、腫瘍の拡がり、組織学的悪性度、リンパ節転移などの評価をします。細胞診(年間約10,000件)は組織診より簡単に行うことができ、良悪性の診断に用いられます。

 診断精度を高めるために2名以上の病理医が診断に加わるダブルチェック体制も敷いています。また、生物学的な腫瘍の特徴を明らかにするため免疫組織化学的検査は必須であり、通常の組織診に用いる他、乳がんにおけるエストロゲン受容体の発現や、Her-2タンパク発現の検査(それぞれ年間約450件)も行い、治療に活かしています。肺がんでは分子標的薬の効果予測を行うため、検査第4科と共同で、EGFR(上皮増殖因子受容体)の遺伝子異常の検出を行っています。

 ご遺族の承諾が得られた場合には病理解剖を行い、これにより生前には明らかでなかった病気が見つかったり、治療効果が判定できたりします。すべての臓器を診て総合的に診断する機会は貴重であり、剖検症例は臨床病理カンファレンスで医療従事者の教育や今後の診療にも役立っています。

 今後とも皆様の早い回復をお祈りしながら、最大限の病理診断を提供していく所存ですので、よろしくお願いいたします。

病理染色の様子

4.当科肺病理の特徴

 神奈川県立がんセンターには病理専門医が7名常勤していますが、そのうち肺がんを専門とする病理専門医が5名いるという、全国的にもその人数の多さでは飛び抜けた存在です。なぜそんなにも多くいるのでしょうか。当院において多くの肺がん患者さんを内科医、外科医、放射線治療医が総合力をもって治療にあたっていますが、適切な治療を行うためには相応の病理医の人数が必要だからです。それぞれが肺がん病理分野の中の専門性を持って日々、肺がんの診断や診断技術の発展に全力を尽くしています。

〒241-8515
神奈川県横浜市旭区中尾2-3-2
TEL:045-520-2210(初診受付)
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神奈川県立がんセンター
呼吸器グループ

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