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手術を受けられる患者さんへ

1.手術前の検査と準備
2.手術後のトラブルを防ぐには
3.手術について
4.術後経過について
5.退院後の日常生活に関して
6.手術の危険性に関して(合併症)
手術室のナース

1.手術前の検査と準備

手術適応(技術的に切除可能か や、 手術をする意味があるのか)について
手術前の体の評価

 これらの判断は、多くの場合、キャンサーボード(呼吸器グループの合同カンファレンス)で決めています。もちろん、最終的に切除可能かを判断するのは熟練した外科医の判断にかかっています。

キャンサーボード

 手術前に行う検査としては以下のものがあります。

採血、採尿、レントゲン写真、呼吸機能検査、心電図、胸部CT、脳MRI、PET-CT

 これらの検査で基本的に大きな問題がなければ手術可能と判断するのですが、最終的には患者さん一人ひとりによって異なります。また糖尿病や心臓に何か病気がある場合には、手術で悪化したり、術後の回復の妨げになるため、これらの疾患をよく評価してから手術に臨みます。結果によっては手術以外の治療方法を選ぶこともあります。

 例えば、心電図で問題がある場合では、必ず循環器科の医師に診てもらいます。結核を疑うような場合では、もし結核菌が陽性ならば当院では治療できないので、専門施設をご紹介することもあります。また、血を固まりにくくするお薬(血液をサラサラにする、と説明されているものがそうです)、例えばワーファリン、ペルサンチン、パナルジン、バファリンなどを服用している患者さんでは、手術中に血が止まりにくいため、数日前に内服を中止します。

・禁煙について
 喫煙者の場合、禁煙開始から手術までの時間を極力長くすることが、術後肺合併症の発生を低くすることが知られています。そのため、入院を予約した段階で必ず禁煙していただきます。入院時に再度禁煙の確認は行いますが、どうしても禁煙できない場合には、安全面での問題がありますので、当院での手術をお断りするか、手術以外の治療をお勧めすることになります。
・肺の悪い人は・・・
 ヘビースモーカーや慢性気管支炎などの患者さんでは、痰が非常に多く出る場合があります。このような場合は、より早期から禁煙していただくことと、抗生剤、去痰剤(きょたんざい)や気管支拡張剤をあらかじめ内服していただきます。痰がかなりひどいような患者さんでは、内服してから手術に臨みます。また排痰訓練も行います。
・呼吸訓練は重要!
 呼吸訓練は、術後肺炎などの予防や、良好な肺の拡張を得るためなど、有効性は広く認められています。手術目的で入院が決まった際に、腹式呼吸訓練の指導を、基本的にすべての患者さんを対象に病棟の看護師が行っています。呼吸機能にかなりの不安がある患者さんでは、「スーフル」という呼吸訓練器を買っていただいてトレーニングする場合もあります。呼吸訓練は自宅でもできるので、積極的に行ってください。またこの訓練以外にも、散歩することも呼吸の訓練になりますので、積極的に散歩をしたり階段を昇ったりして、しっかりと体を動かしてください。

【横隔膜呼吸(腹式呼吸)】横隔膜呼吸(腹式呼吸)

 息を軽く吸って、また吐いてみてください。呼吸に合わせて横隔膜が上、下に動きます。横隔膜は息を吸うときに一番大切な筋肉ですので、これを鍛えるような呼吸法を修得しましょう。

 健康な人では横隔膜は呼吸運動の約80%を担っているといわれています。しかし、手術後は息を吸うときにうまく力を発揮できなくなります。普段から横隔膜を鍛えることを心がけ、そのための呼吸法を行うことが大切です。


【口すぼめ呼吸】口すぼめ呼吸

 口すぼめ呼吸とは、口笛を吹くようにして息を吐く呼吸のことです。こうすることにより、息がうまく吐けるようになります。うまく吐ければ次にうまく息を吸えることになり、息切れがやわらぎます。

 息を吐くときに口元に抵抗が加わることによって、つぶれやすくなった細い気管支を拡げたままの状態に保っておくことができるのです。こうして、腹筋をうまく使って息を外へと吐き出すことができるのです。また、息を吸い込むときに細い気管支を拡げる必要がないので、呼吸に使うエネルギーが少なくてすみます。



2.手術後のトラブルを防ぐには

(1)術前の禁煙

お話ししたように、手術前の喫煙は、術後肺合併症の発生が高くなることが知られています。どうしても禁煙できないならば、手術以外の治療法を選択していただきます。

(2)早期離床

術後早い時期から歩き始めることで、肺炎などの合併症の発生や、一時的なボケの予防を行うことができることがわかっています。また、長時間寝ていることで、下肢静脈血栓(足の静脈の中に血の塊)を作り、肺塞栓症(はいそくせんしょう:いわゆるエコノミークラス症候群)を起こすこともわかっているので、早期の離床がその予防に効果を発揮します。ベッド上にいるときには足を積極的に動かしておくことも良いでしょう。
当科では、術後翌日から朝にICUで歩行訓練をします。そのために十分な鎮痛が必要で、また動きやすい環境が必要です。硬膜外麻酔を使って十分に痛みを減らし、手術翌日からチューブ類を少なくします。手術翌日のお昼から食事が始まるので点滴をなくすか少なくします。医師、看護師から、回診や検温のたびに積極的に動くよう言われると思いますが、それほどまでに歩くことが大切だからです。

(3)痰の喀出(かくしゅつ)

手術後の肺の膨らみが悪くなったり、肺炎になったりすることを予防するために、積極的に痰を出してください。痰が多く出る患者さんにはネブライザーを行います。咳をする際に創部を手で押さえるようにすることも効果的です。肺の膨らみが十分でない場合には、スーフル(呼吸機能訓練器)を行います。非常に喀痰(かくたん)が多く、自力では出し切れない場合には気管支鏡や吸引チューブで痰を吸って取ることもあります。それが頻回にしなければならないようならば、のどに細いストロー状のチューブ(ミニトラックといいます)を麻酔して留置することもあります。このような事態になるのは、ほとんどがヘビースモーカーだった方です。

(4)ご飯を食べること

口から栄養分を摂ることは、傷の回復、体の状態の回復に非常に大きな意味があります。点滴での栄養補給と、口からの栄養補給では効果が全く異なります。傷の回復の観点から考えると、口からの栄養摂取はとても有利です。

(5)十分な鎮痛

痛みを十分にとることは、しっかりと痰を出すことができ、無気肺や肺炎の予防になりますし、術後の早期離床にも役に立ちます。
麻酔科医が手術室で硬膜外麻酔のチューブを入れますので、術後の痛みの軽減に使います。局所麻酔薬とモルヒネの仲間の薬を数日間絶え間なく注入します。嘔気が出る場合、一時的に尿が出にくくなる場合があるので、吐き気止めを使用したり、尿道バルーンを再挿入したりすることもあります。また飲み薬の鎮痛剤を手術後に内服します。術後のストレスや鎮痛剤の影響で胃や十二指腸を荒らすことがあるので、予防的に胃薬を一緒に服用します。

(6)胸腔ドレーンについて

胸腔ドレーンとは、手術直後に胸の中に入っている6〜7mm径の透明なビニールチューブです。肺から漏れてくる空気や胸の中にたまった水(胸水)を体外へと出し、肺の順調な拡張を目的に留置しています。良好な肺の拡張を得るためには大切なものです。ひっくり返したり引っこ抜いたりすると、大きなトラブルにつながる可能性がありますので、忘れずにつれて歩いてください。


3.手術について

(1)開胸法(胸をあけるやり方)について

標準的な術式(胸腔鏡併用手術)

(1)後側方切開(約10〜15cm)、(2)前方腋窩切開(約7〜13cm)

当科では、ほとんどの手術で内視鏡を併用しています。直接創部から術野を見ることと、胸腔鏡からの視野の併用で死角を少なくし、看護師・麻酔科、周りにいる外科医と情報の共有を図り、より安全確実な手術の遂行に努めています。

右の図のような皮膚切開を置いて、肋骨の間を分けて手術を行います。後側方切開では肋骨を一部切り肋骨を押し開きますが、手術終了時にもとの位置に戻します。これが原因で日常生活に支障が起きることはありません。大きな腫瘍、大血管に絡むような腫瘍では、創の大きさが20〜40cmとなることもあります。
標準開胸

胸腔鏡下手術

右の図の矢印の位置に、2〜4箇所の皮膚切開(0.5cm〜5cm)を置き、内視鏡カメラを胸腔内に入れて手術を行います。基本的に肋骨を切ることはありません。

近年カメラの性能がよくなり、拡大された術野を鮮明な画像としてモニターに映すことができるようになりました。これにより、胸腔鏡手術の安全性が向上しました。傷が小さいため、術後早期の回復が期待できます。早期小型肺がんに対する肺葉切除、肺の端にある小型の肺腫瘍に対する部分切除や、縦隔腫瘍の一部で行っています。

一方で比較的大きな腫瘍、複雑な手技や合併切除が必要な手術、また、出血等のリスクの高い手術においては、開胸手術のほうが安全かつ短時間に手術を終えることができるため、かえって低侵襲になる場合が少なくありません。

十分に検討し、最適なアプローチ方法を選択いたします。
胸腔鏡下手術

胸骨縦切開

右の図のように、胸骨を縱に切り分けます。切った胸骨を左右に開くことで、心臓の前面(縦隔)に到達します。胸骨は最後にワイヤーで閉じます。主として縦隔腫瘍の切除のときに用います。 胸骨縦切開

(2)術式の詳細
疾患の種類や進行度、病変のある場所、全身状態などさまざまな要因によって、行う術式は異なります。肺は切除した分だけ小さくなり再生することはありませんが、残存した肺が位置を変えてより大きく膨らむこともあります。肺の膨らむ程度は、もともとの肺の状態と術後のリハビリの努力次第で変わってきます。

肺全摘術

片方の肺を全部取る手術で、 肺の心臓に近い側にできた肺がんで行います。手術後の呼吸機能は半減し、心臓にも負担がかかるため、手術後の日常生活へかなりの支障が出ることがあります。肺全摘は、十分な余力を持った人だけに行います。特に右肺全摘は限られた患者さんにのみ行っています。肺葉切除に比べると、術後の合併症も2〜3倍の頻度になります。 最近では可能な限り血管・気管支形成を行うことで、片肺全摘が行われることはかなり少なくなってきています。 肺全摘術

肺葉切除(1葉、2葉)

肺がんのできた肺葉(右は上中下の3肺葉、左は上下の2肺葉)を取る手術で、肺がんの手術の標準術式とされています。がんのできた位置やリンパ節の転移の状況に応じて、2つの肺葉を切除する場合もあります。

手術後の呼吸機能は、取る肺葉の大きさによって異なります。右上葉であれば17%減、右中葉であれば12%減、右下葉であれば27%減といった具合です。 手術後の生活は、もともとの肺の状態と呼吸能力次第ですが、おおよそ2〜3か月程度で、支障はありますが、手術前の状態に近いぐらいにまで戻ることが一般的です。
肺葉切除(1葉、2葉)

肺区域切除、肺部分切除

肺の一部を切り取る手術です。区域切除の方が、肺の付け根まで深く切り込み、肺の付け根の部分のリンパ節転移状況がわかるため、部分切除に比し、がんの根治性は高いとされますが、術式がやや複雑になる傾向にあります。手術後に残存する肺の量はかなりありますので、手術後の呼吸機能の減少は、わずか〜10%程度の減少です。そのため、手術後の呼吸障害の程度は少ないです。初期の肺がんや前がん病変、転移性肺腫瘍、良性肺腫瘍で行う手術です。肺区域切除、肺部分切除

リンパ節郭清

肺がんの手術でがんが転移しやすいリンパ節、主に気管や気管支の周りにあるリンパ節を取ることをリンパ節郭清といいます。おもに肺がんの進行度を判断するためと、より完全にがん細胞を取り除き、がんの根治性を上げることを目的としています。 リンパ節を取ることで特別な障害が起きるわけではありませんが、手術操作で反回神経麻痺や乳糜胸(にゅうびきょう)が起きる可能性があります(合併症の項で後述)。
リンパ節郭清

血管・気管支形成術(スリーブ切除)

残存肺容量を多くするために、血管や気管支を一度切り離し、病変を取り除いて再度血管や気管支をつなぎ合わせる術式です。肺全摘を回避する目的で行われることが多く、肺全摘に比べ日常生活への支障が少ないことが特徴ですが、手技的にはやや複雑になるため、高度の技術力を要求されます。他院に比較して多くの形成術を行っているのは、当院の特徴の一つです。

右上葉スリーブ切除の一例

右上葉気管支の根部に腫瘍が位置しており、完全切除には肺全摘が必要です。
スリーブ切除1
右主気管支と末梢の気管支を切り離し、上葉を切除します。血管形成も同様にして、腫瘍の部分のみを切り離します。 スリーブ切除2
中枢側と末梢側をつなぎ合わせて、中葉と下葉が残せます。
スリーブ切除3

縦隔腫瘍切除術

胸骨縦切開または胸腔鏡を用いて腫瘍を切除します。良性疾患や小型の悪性疾患では胸腔鏡を用いて手術します。腫瘍が周囲臓器に浸潤している場合には、胸骨縦切開を用いて、それらの臓器もあわせて切除する場合もあります。
縦隔腫瘍切除術


4.術後経過について

クリニカルパスを参照してください

(1)手術直後から翌日

手術直後は、呼吸器外科の医師からご家族の方に対して、手術内容について説明があります。麻酔を醒ましてから手術室を出て集中治療室に入ります。その際に家族と患者さんは面会できますが、麻酔が醒めた直後でかなりボーっとしていますので、あまり覚えていないかもしれません。その後の集中治療室での面会は原則お断りしています。

手術が終わった直後は、下記のようないろいろな管などが体についています。
歩行訓練これらのものは、手術直後の不安定な体の状態を細かくチェックし、異常の早期発見に役立っています。集中治療室は基本的に1泊の予定です。退室後は、元の病棟に戻ります。
手術の翌日朝に体の状態をチェックして、お水を問題なく飲めるかどうかのテストを行います。通常お昼から食事を開始しますが、おなかの手術や腸閉塞の既往がある人は、食事開始をしばらく待ってもらう場合があります。
集中治療室退室前に歩行訓練を行います。また体重測定のために歩いていただきますが、この時期まだチューブだらけですので、看護師さんに手伝ってもらって注意して歩きましょう。

(2)手術後2〜3日

全身状態はかなり良くなります。チューブ類も減って、自力で十分歩けるようになります。創をホチキスなようなもので固定してありますが、この金具は術後1週間で外します(抜糸、正確には抜鉤(ばっこう)といいます)。また抜糸が不要なように創部を閉じている場合もあります。傷のつきに時間がかかりそうな方は外来で抜糸を行います。手術して7日目に検査(採血とレントゲン写真)があります。これで、退院しても良いかの判断を行います。

手術室のナース(3)退院

原則、手術後4-7日目です。予想退院日は、入院時の手術説明の際にお渡しする説明書に明記してあります。退院が決定した際には、日常生活についての説明が看護師からあります。
手術後に、抗がん剤や放射線などの追加治療を行うかどうかの判断は、切除したものの結果(病理)が判明した後に行います。病理結果では、どんな種類のがんだったのか、どれぐらい進んでいたのか、手術できれいに取り切れているのかがわかります。この結果は術後2-4週間程度かかりますので,外来でお話をさせていただきます。

(4)手術後の採血:翌日、4日目、7日目

末梢血(白血球、赤血球数)、生化学検査(肝腎機能、体液バランス、炎症反応)を必ずチェックしています。炎症反応の具合(感染を起こしていないかどうか)、血液の薄まり具合(体の水分バランスのチェック、点滴の調整)、肝臓・腎臓の機能評価(手術で多くの薬剤を使用するため、これらの臓器にダメージを負いやすいので)、体のミネラルバランス(塩分、カリウムなど)が評価対象項目です。

(5)レントゲン写真:当日、翌日、4日目(もしくはドレーン抜去翌日)、7日目

肺の拡張具合、胸水の量、肺の濃度変化(肺炎の兆候) 等を確認しています。生理的に貯溜する胸水は特に問題ないのですが、たまり過ぎると残存肺の拡張に支障をきたすので、利尿剤を使ったり、場合によっては胸水を抜くこともあります。

(6)回診、創部とドレーンのチェック:毎日

毎朝夕、回診に伺います。回診に先だち、病棟看護師の記録と検査結果を外科医がチェックして、方針についての確認を行います。熱はないか、痛みの程度はどうか、肺の膨らみはどうか、不安の訴えはないかなど、多くの項目について確認をしています。回診の際には、患者さんの顔色、元気さなどを、患者さんと直接お話をして確認をしています。
創部では、滲出液や膿が出ていないかを見ます。 また胸腔ドレーンが入っている人では、ドレーンからの排液の性状、量、圧の変動、空気漏れの量や程度を見ています。以前とは違い、最近では毎日創部の消毒をしたりガーゼを交換したりするわけではありません。消毒をすることで逆に傷の治りが遅れたり、細菌を傷に持ち込んだりすることがあり、今までの方法は良くないとわかったからです。手術直後は創部保護のためのフィルムを貼布して外敵から守り、その間に自己治癒能力で傷が治ります。


5.退院後の日常生活に関して

花 ドレーンを抜いた部分にまだ糸が残っていますが、最初の外来で抜糸します。ご自宅での入浴(浴槽につかっても)は全く問題ありません。 創部の痛み、かゆみ、違和感、しびれなどは術後数週間続くのが普通です。長く続く人では、半年から1年かけて回復されることもあります。天候に応じて痛みが強くなることもありますが、痛み止めを適宜使用してください。梅雨や季節の変わり目などに特に痛みがぶり返すこともあります。我慢する必要はありません。 多くの場合、手術した側のお乳の下のあたりの痛みが出ますが、基本的には神経痛が主な理由です。入浴でゆっくりと温めることが、痛みの軽減には効果的です。

 退院後は普段どおりの生活に戻っていただいてかまいませんが、開胸手術では術後4〜6週間、胸腔鏡手術では術後2〜3週間、ゴルフやテニスなど創部に負担をかけるようなスポーツは避けましょう。仕事復帰は仕事内容次第ですが、術後1ヶ月程度が目安です。

 食事については特に制限はありません。バランスのよい栄養補給で体力の回復に努めてください。禁煙は続けましょう。

 手術後2〜3ヶ月は、息切れ、痛み、咳・痰でしんどく思われる方もおりますが、3ヶ月過ぎにはかなり症状は良くなります。ですので、手術後退院して最初の時期は残念ながら我慢を必要とすることがありますが、つらい時期を過ぎた後にはほぼ日常生活に戻ることができます。まれに、在宅酸素療法を必要としたりする場合もあります。


6.手術の危険性に関して(合併症)

 残念ながら、手術は100%安全が保障された治療法ではありません。手術中や手術後(周術期といいます)に何かしらのトラブル(これを合併症といいます)を起こすことがあります。自覚的に全然気がつかないレベルのものから死に至る場合まで、さまざまなものがあります。近年マスコミで話題になることが多いようですが 、最近になって増えてきているわけではありません。むしろ医療技術や薬剤の進歩から、周術期のトラブルは減少してきています。

一般に、肺がんの標準手術である肺葉切除を行った際の危険性としては、
合併症が生じて、回復が遅れる可能性(予定退院日が延びてしまう場合) 10−15%
再手術や、術後に大きな後遺症が出る可能性(最悪命を落とす場合を含む) 2−3%
(当院クリニカルパスおよび日本肺がん学会・日本呼吸器外科学会全国集計による参考値)

と推測しています。もちろん、おのおのの患者さんの年齢や喫煙状況、手術内容や手術前の疾患、全身状態によってこの数字は変わってきます。手術前の説明の中で触れる予定です。

周術期に起こる合併症としては、

術中・術後出血

肺がんの肺葉切除で、出血量は通常ごく少量〜200g程度です。そのため術中の出血で輸血が必要になることは少ないのですが、 大血管を扱う手術のため、手術中や手術後に大量に出る場合もないわけではありません。万が一に備えて輸血は必ず準備いたします。また、術前に抗がん剤治療を行ったりして貧血の強い方も輸血を行うことがあります。輸血は日赤から取り寄せた安全とされるもの、すなわちB、C型肝炎、エイズウイルス対策済みのものを、医師の判断で使用いたします。

手術創感染・膿胸

創部の表面、深部に細菌が感染し、膿んでしまうことをいいます。特に膿胸は肺の周りに膿がたまることを指し、命を脅かすこともあります。予防的に抗生剤という化膿止めを使用しますが、残念ながらそれでも感染は起きてしまうこともあります。感染した場合には、塗った糸をはずして、毎日よく洗い、体の持っている修復能力で傷を治します。膿胸になってしまった場合には、胸に穴をあけ膿を出す手術を行うこともあります。

MRSA(メチシリン耐性ブドウ球菌)

細菌の一種ですが、通常の抗生剤は全く効果がありません。有効な抗生剤もあるのですが、この菌で肺炎や膿胸を起こすと、重篤な状況になってしまうことがあります。感染予防対策には万全を期していますが、残念ながら100%の予防はできません。

無気肺、肺炎、間質性肺炎

肺の手術後は、痰が多く出ることがあります。特にヘビースモーカーであった場合などは、痰がひっきりなしに出てきて困ることがあります。自力では出し切れずに、看護師さんにチューブで吸引をしてもらったり、気管支鏡をしなければいけなかったりすることもあります。ひどい場合にはのどにストローのようなチューブを麻酔して挿入することもあります。
痰詰まりから、無気肺(肺に空気が入らない、)状態を起こします。さらに無気肺から肺炎を起こすことがあります。痰が絡む際には、積極的に動いて、咳をし、痰を出すように努めてください。痛みが強い場合には咳をしたり歩いたりするのがきついですので、痛み止めを使ってください。肺切除後の肺炎は極めて危険なことです。命にかかわる重大事ですし、治った後も後遺症として酸素の取り込みが悪くなり、在宅酸素療法が必要になることもあります。

肺瘻、気管支断端瘻

肺や気管支を切った部位からの空気漏れのことをいいます。特に肺のもろい人(肺気腫など)ではこの空気漏れが術後続くことがあります。この間、胸腔ドレーンを長期間留置しなければならず、このドレーンを伝わって胸腔内に細菌が入ってきて、膿胸の発生が懸念されます。空気漏れの防止、軽減のためフィブリン製剤を使用する場合があります。
また、気管支からの空気漏れを特に気管支断端瘻といいますが、多くは膿胸を引き起こすので、再手術が必要になります。

リンパ郭清に伴うトラブル

郭清により反回神経という神経が障害されると声帯の動きが悪くなり、声がしわがれたり(嗄声:させい)、水を飲むとむせる(誤嚥:ごえん)ことがあります。また、太いリンパ管が切れることで、リンパ液が多量に漏れ出てしまう合併症もあります(乳糜胸:にゅうびきょう)。

肺塞栓症(いわゆるエコノミークラス症候群)

手術中や手術後に長くベッド上に横になっていることで、足の血管に血の塊(血栓)を作ってしまい、それが手術後の歩行開始時に肺に飛んで肺の血管に詰まってしまうことをいいます。いったん起きると重篤な状態になることがあります。これを予防するために、手術中に血を固まりにくくする薬を点滴したり、弾性ストッキングを履いたり、空気圧での足マッサージ器を装着します。

麻酔を含め、手術により全身に負担が掛かることで起きるトラブルの可能性

脳の血管が詰まったり、破れたりするトラブル、心臓を栄養する血管が詰まったり、不整脈などがあります。また、手術や麻酔で使用する薬にアレルギーが出たり、今まで気がつかなかったことが、麻酔や手術を機に顕在化することもあります。

入院中のイメージ